2023年1月より始動したDMM×2.5次元の新プロジェクト「2.5次元的世界」の作品として、言劇「仔狸綺譚」が配信されている。“言劇”とは、映像がなく言葉と音楽で楽しむ演劇。人間の世界で生きる狸のハートフルな冒険を描き、35役・台本45000字にわたる物語をたった一人の声で演じたのは、ミュージカル『刀剣乱舞』や舞台「呪術廻戦」などで活躍する定本楓馬。今回、定本にインタビューを行い、収録秘話や音声だけの“言劇”の魅力、声の演技を通じた学びなどについて語ってもらった。
一人芝居は「想像を上回る大変さでした(笑)」
――初めに、「言劇」での一人芝居というオファーを受け、出演が決まったときの気持ちを教えてください。
声だけのお芝居というのも経験が多くはなかったですし、しかも今回は自分一人。単純に楽しそうだな、やってみたいなという気持ちでお受けしました。
――結果的に35役・43000字というボリューム感になりましたが、演じてみての感想はいかがですか?
想像を上回る大変さでした(笑)。僕の声しか流れないので、同じ人同士でしゃべっているように聞こえたらいけない。全くの別人に聞こえて会話が成り立つよう頑張りました。
――演じ分けで意識したところは?
キャラクターを年齢や性別でまず分けた後に、この人はおとなしい性格、この人は活発な性格…という個性を考えて、それならこういう風に話すだろうと、ひとりひとりの細かい役作りをしていきました。演出の小沢(道成)さんが色々と話し方の提案をしてくださって、それに助けられた部分も大きかったです。
――小沢さんとは、かなりやりとりをしながら作られたのでしょうか?
そうですね。稽古時間がすごく長いわけではなかったですが、2人でずっと話し合って、密な時間を過ごせたと思います。小沢さんは本当にお芝居がすごくって、お手本で正解を見せてくれるので、最初は「もう小沢さんがやったらいいんじゃないですか!?これを超えられるかな…」という気持ちになったんですけど(笑)。
特にテンポが天才的で。僕は最初、聴きやすさを意識してすごくゆっくり読んでいたんですが、話すスピードによってお話を操って厚くしていく技術を教えてもらいました。
――演技で特に苦労した点を教えてください。
自分で発した言葉と、それを録音して聴いた言葉では感じ方が違って。自分が話したいように話すというよりは、どうしたらお客さんが心地よく、ストレスなく聴けるかというところがすごく難しかったです。
あとは女性の声です。「お金持ちそうなおばさま」「気弱な女性」「お母さん」「少女」など、今まで経験したことのない役だったので、役をつかむのに苦労しました。
――確かに、一人芝居という形でないと、自分からかけ離れたキャラクターを演じる経験はあまりないですよね。逆に、ここが気に入っているというポイントはありますか?
収録が一番スムーズにいったのが、古びた狸の教授の声だったんです。「いいね!どんどん録っちゃおう!」って進んで。僕はおじいちゃんの声がうまいのかもしれない(笑)。
――私は6話に登場する魚屋さんが好きです。
濃いキャラクターですよね(笑)。あれも収録が終盤で、男性キャラクターを何人も演じた後だったので、声のバリエーションをどうするかはかなり悩みましたね。
山寺宏一との共演で声優のすごさに感動
――今回“言劇”を演じてみて、声だけのお仕事への興味はわきましたか?
はい!僕が初めて声優さんとお仕事したのが、舞台で山寺宏一さんとご一緒したときだったんです。もちろん身体全体を使ってお芝居するのも大事なんですが、山寺さんの声の説得力がものすごくて、衝撃を受けました。音だけで全てを伝えることができるって、本当にすごいなと。僕は元々アニメが好きなのもあって、声優さんは興味のあるお仕事だったので、今回どっぷり声の世界に浸かれてうれしかったです。
――定本さんは「2.5次元的世界」のオンライン発表会でも、“言劇”は映像がない分いつでもどこでも聴けるとお話されていましたが、どんなときにこの「仔狸綺譚」を聴いてほしいですか?
僕、お風呂ですることがないとすぐ出ちゃうタイプなんですけど、そんなときに(本作を)聴いて楽しめたら、身体もぽかぽかあったまるんじゃないかな。あとは夜寝る前に聴きながら寝落ちしていただいてもいいですし。1日の終わりだったりとか、リラックスできる時間に聴いていただけたらうれしいなと思います。
――本作を聴いて、映像がないために、むしろリスナーが自分の中のビジュアルイメージを膨らませることができるのではないかと感じました。音声だけのコンテンツの魅力はどんなところにあると思いますか?
そうですね。僕自身として、最近あんまり日常生活で本を読む機会がなくなってしまって。この作品を聴きながら考える時間がとても楽しくて、自分で作り出す世界ってこんなにワクワクするんだ!と感じたので、忙しくて本を読む時間がないという方にも、この作品を聴いて自分なりの想像力の世界に浸ってほしいなと思います。
――演じた定本さんにとって、本作が映像や演技のお芝居にも生かせるなと感じた点はありますか?
生かせることばかりです。演技で声って絶対に使うものですし、同じ言葉にも色々な言い方があるじゃないですか。自分の出せる声の幅を理解することが、これからお芝居をやっていく上でプラスになるので、勉強になったなと感じています。
今まで、声についてそこまで意識した経験がなくて。キャラクターの性格的な個性から声を考えることはあっても、年齢とか細かいところまで考えたことがなかった。難しかったけど楽しかったです。
――また35役・43000字の一人芝居のオファーが来たらどうしますか?
ちょっと考えます、3時間くらい(笑)。でも今回悔しいこともたくさんあったし、今だったらもっとこういう風にやりたいなというアイデアもあるので、機会があったらまた挑戦したいです。濃い、やりがいのある時間を過ごさせてもらいました。
DMM TV「2.5次元的世界」言劇『仔狸綺譚』
狸はある一定の年齢になると、 人間に化ける術を学び、 人間の世界で生きる事を強いられる。 主人公の仔狸が、どう生きるのかを描くファンタジードラマ。 毎週金曜24時配信。脚本・演出/小沢道成
出演: 全役/定本楓馬